補足:生活費を入れない元夫と婚姻費用

(1)夫婦の扶助義務

民法第752条は,婚姻の効力として夫婦の同居,協力,扶助義務を定めています。つまり,夫婦は同居して互いに協力し,助け合って生活していくべきだと法律は定めているのです。もちろん,夫婦の事情(仕事や介護など)によって同居が困難な場合もあるでしょうが,それでも助け合って生活していくのが夫婦であるといえるでしょう。

財産面でこれを受けているのが前の項目1で述べた民法第760条です。

第760条(婚姻費用の分担)
夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。

おもにこの2つの条文によって,夫婦はその生活費を分担すべきことが定められているのです。もちろん,これは同居していようがいまいが変わりません。


(2)請求の方法

婚姻費用の分担義務があることは明らかであるとして,どうやって相手に払ってもらうか,という問題が続きます。

口で話して渡してくれるようなら,問題を大きくする必要はありませんね。あくまでも夫婦間の問題ですから,まずは当事者間で,それが難しいようなら家族会 議のようにして互いの実家を交えるか,共通の友人など第三者を挟んで話合いの場を設けるのが穏当だと思われます(片側に肩入れする人のみを入れると逆にこ じれるかもしれませんので,第三者を挟む場合には注意が必要です)。

任意の話合いでは埒が明かない場合,公的な場所を利用することができます。婚姻費用分担の請求は,人事に関する事件として家庭裁判所で調停を行うことが できます(家事審判法第17条)。調停の申立て自体は難しいことではなく,家庭裁判所に行って準備されてある申立用紙に,必要事項を書いて提出すればでき ます(戸籍謄本や印紙代などが必要となります)。具体的な必要書類や書類の書き方などは,窓口で書記官が教えてくれます。

調停という手続きは,家庭裁判所で調停委員という第三者(おじさまとおばさまの二人組)を交えて話をするもので,第三者を間に挟むことによって当事者同士が合意に達しやすいというメリットを期待した手続きです。
当事者が合意に達して調停が成立した時には,その調停調書(書記官がつくってくれます)には判決と同様の効力が認められるというメリットもあります。内容 によっては強制執行もできます。ただし,出席して調停に参加するかどうかも当事者の自由ですし,合意に達しなかったときには調停不成立となります。

なお,調停不成立となった場合には,同じく家庭裁判所で審判という手続きに移行します(家事審判法第26条,第9条1項乙類3号)。審判とは裁判と類似 の手続きで,当事者が合意に達しない場合には裁判官が結論を出します(家庭に関する事件であることから,手続きの非公開等特別の定めがあります)。この審 判は審判官(裁判官です)が当事者の言い分を聞き,資料をもとに下す判断ですので,申立人が満足するとは限りません。