補足:夫婦の同居義務がなくなるケース

(1)すでに何度も述べているとおり,夫婦には同居義務があります。夫婦喧嘩の折に「もう同居しない」という約束をしたとしても,これに正当な理由がなければ,同居義務が失われることにはなりません。

ただし,前記3.及び4.で述べたように,事情によってはこの同居義務の履行の請求をすることができなくなる場合があります。


(2)どういう場合に同居義務がなくなるのか,家庭裁判所に審判を申し立てても同居を命ずる審判がでないのかについて,法律の条文に具体的な手がかりはありません。

いくつかの裁判例では,「婚姻の維持継続の見込みが否定されず,同居を命ずることが公平の観念や個人の尊厳を害しないと見られる場合には,家事審判により 具体的な同居義務を定めることができる」とされています(大阪高決平成17年1月14日家庭裁判月報57巻6号154頁)。

この決定では,婚姻期間に比べて別居期間が短く,申立人が同居を求めていることから婚姻の維持継続の見込みが完全に否定される状況にあるとは断定できないとして,同居義務を認めています。

このような裁判所の立場は,夫婦である以上は基本的に同居義務は失われない,というものであると考えられます。ただし,同居を命じたとしても夫婦関係が改善される見込みが全く無い,同居することで夫婦関係がさらに悪化することが明らかである等,同居を命じる審判がなされたところで事態が悪化する見込みしかないような場合には,裁判所はこれをしないという判断をすることがあります。

別居期間が長い,すでに完全に夫婦関係が破綻していて回復の見込みが皆無である等の場合には,夫婦の一方が心から同居を望んでいても難しいかもしれません。